もう戻らない

「パパ、鍵を変えちゃうの?」、私にそう言うのは小学生になったばかりの一人娘。

幼い子供にそう言われたら手が止まり、玄関ドアの鍵を交換してくれている業者のオジサンは「どうします?」と聞いて来た。

私、「続けて下さい」

私は現在、娘と2人暮らし。1ヶ月前までは3人で暮らしていたが、娘を生んだ女は男と出て行った、娘を置いて。

私、「悪い人が多いから、たまに鍵を交換しなくてはならないのだよ」

娘を置いて男を選んだ母親なのに、娘にとってはかけがえのない母親、その母親のことを私が「悪い人」と表現したため、娘は泣いてしまった。

私、「ごめんね」

娘、「鍵を変えてしまったら、ママは帰って来られないよ」

私、「大丈夫だよ、家にはチャイムがあるから」

娘、「チャイムが鳴ったことに気付かなかったら、どうするの?」

チャイムを鳴らして出て来なかったら、玄関ドアを開けて家の中に入れば良いのだが、鍵を変えてしまったら母親は家の中には入れず、娘からすれば母親が可哀想なのだろう。

玄関の鍵を変えてからは、チャイムに敏感になった娘。

私、「もう寝なさい」

娘、「寝たらチャイムに気付かない」

私、「パパが起きててあげるから、安心して寝なさい」

母親のいない不安で眠りが浅いのか、物音がすると娘はスグに起きてしまうようになった。

男と一緒に出て行ったのは妻、悪いのは妻で私ではない、なのに、私も眠れない。

眠れないことを友人に相談をすると、「元の鍵に戻したら」と言われたのだが、鍵を交換してもらった時にもらった鍵穴(シリンダー)はマイナスドライバーを無理やり突っ込んで私が壊した。

鍵と同じで、1度壊れた夫婦仲は元には戻らない。

鍵 北九州