家のカギを交換したことで息子は変わった

夫が大事にしていたギターが失くなった。
失くなったのではない、息子が盗んだのだ。息子は高校に通い始めた頃から素行が悪くなり、家に寄り付かなくなった。
失くなったギターは、夫が高校生だった時にアルバイトをして貯めたお金で買った青春の思い出、その思い出を青春真っ只中の息子が盗んでしまった。
激怒した夫は私に「家のカギを交換しろ!」、家のカギを交換してしまったら息子は帰って来られなくなる、夫と違い私はお腹を痛めて息子を産んだ、夫に言われても家のカギを母親の私が変えられない。
私が拒んでいると、夫が業者さんに連絡をして、家のカギを変えてしまった。
夫には言ってないが、息子が勝手に持って行ったのは夫のギターだけではない、日頃、貴重品等をしまっておく引き出しにはお金を入れてあり、そのお金も息子は勝手に持って行った、勝手に持って行ったのは1回2回ではない。
寝ていると玄関で物音がしたため、2階の窓から1階を見ると、息子が乗っていると思われるバイクが停まっていた。
息子は玄関のカギを交換したことに気付いてないため、何度も古いカギで玄関ドアを開けようとしている。
息子がいつ帰って来ても良いように、貴重品等をしまっておく引き出しにはお金を入れてある、しかし、古いカギでは玄関のドアは開かない。
私と夫は同じ部屋で寝ていたため、寝ている夫を起こさないようソッと部屋を出ようとすると、「行ったらダメだ、アイツの為にならん」。
甘やかすのは子供の為にならないことは分かっている、しかし、母親としてはお金がいる息子をほっとけ無い。
私が部屋を出ようとすると、ベッドで横になっていた夫が立ち上がり私の手を掴んだ。
私、「今回だけ許して」
夫、「ダメ・・・」
ダメと言い掛け、その後に夫が何も言わなかったのは、夫も泣いていたから。
家からお金を持ち出せないと分かった息子は、バイクに乗ってどこかへ行ってしまった。
定年退職した夫は「そんなこともあったね」と笑って話す、その話を息子はバツの悪い顔で聞いている。
息子には子供が出来、私はお婆ちゃんになったが、貴重品等をしまっておく引き出しには今もお金を入れてある、いつでも帰っておいで。